ミニエッセイ  -思ううがまま-

包丁研ぎ

宮本 艶子

最近、包丁を新しくしました。銘は「関孫六」。楽しく、気分良く料理をするには、包丁の切れ味が大事。どんな名刀も磨かなければ鈍になります。かつては研屋さんが来てくれハサミなどもお願いしていました。その後はもっぱら夫の仕事に。私はシャープナーで急場を遣り過していました。ところが、ある日、砥石を見て、一度くらい自分でこれを使ってみようと思い立ちました。調理師さんの研ぎ方を思い出しました。といっても飽くまで我流。でも刃先が鋭利になってゆく実感に、さて試し切り。まずは葱、次は人参…と何とも心地よくトントン、スパスパ。味を占めました。何事も臆せずやってみるものです。

御所市

森川 敬三

八月初旬、奈良県御所市の「御所まち」に行きました。「御所」は「ごせ」と読み、江戸時代初期の陣屋町の町割がそのまま残っています。旧高野街道と葛城古道が交差し、宿泊地、商業地としても発展してきました。この古い町並みを散策することが目的です。

地図を見ながら歩いていると、地元の方から声をかけられました。その方は、ボランティアで観光ガイドをしたり、自宅の庭に休憩所を設けたりしています。そこでお茶を頂きながら、町の歴史や見どころ、町並み保存やPRの難しさなどを伺いました。役行者の生誕地と教えられ、最後に役行者が開基とされる吉祥草寺を訪ねて旅を終えました。

弟の家系図

柳瀬 富子

平成十七年に実家の弟からうちの先祖の供養をしたいから今いろいろ調べているとの知らせがあった。総本家の慶安時代( 江戸初期)より分家して、第一代から第十二代の名前( 夫妻)と戒名と命日( 六名不詳)を年号と西暦を添えて家系図を作った。九代からは家族の詳細も入っている。親族の今解っている人、暫く振りに逢う人それぞれに供養のご来駕を出した。

当日は遠方からも大勢集り賑やかに法要を営むことができた。家系図はよくぞここまで調べたと皆感嘆した。弟は第十三代で去年元気に傘寿を祝ってもらい、現在は老人施設で静かに生活している。長男が第十四代を継いでいる。

大相撲人気

山田他美子

七月お盆で田舎へ帰った時、家で懐かしい地方新聞を開いてみると一ページを使って翌日から始まる大相撲の番付表が載っていた。

そこには顔写真付きで四股名・本名・年齢・出身地・出身校・部屋名・身長・体重・初土俵年月・先場所の成績・得意技・優勝数と三賞数が書かれ、その下には十五の○が並んで星取表になっていた。東京や神奈川の新聞では先ず見たことがないようなページだった。

夕食の時には弟夫婦と石川県出身の力士の話で盛り上がった。帰りは弟が車で金沢駅まで送ってくれたが、途中の津幡町を通った時「ここが大の里の生まれた町なんだよ」と教えてくれた口調がとても誇らしげに思えた。

本 箱

渡部 春水

自室にある本箱はサクラ材で高さが150㎝・幅が70㎝。硝子戸の観音開きで70年近く愛用している。上京して飛鳥山公園の近くに公務員の兄と間借りをして買い求めた物で当時としては高額。学生時代には、社会科学系の本ばかりで小説や詩文等はほとんどなかった。勤め人となり、実務関連の書物の他歴史小説や文学全集等が増えた。家庭を持ち、子供達の本箱も増え引越しの度に妻から買い替えを提案されたが、愛着が深く我が家の最も古い家具となった。定年後に始めた俳句と連句で蔵書の入替えが進み、本箱の風景が変わり自分の人生に重なる。艶が薄れ扉の締まり具合が悪くなったものの使い続けたい。

鷺 草

青木つね子

去年の七月友人から小さな鷺草の鉢を頂きその名の通り白い可憐な姿に癒されていましたが花の命は短く、冬越しのことを考え園芸雑誌を頼りに湿り気を絶やさないようフレームの棚に冬越をし、今年三月怖る怖る鉢を開き幾粒かの球根を見たので、新しい鉢に水苔を敷き五六粒の球根を並べ水苔で覆い毎日水遣りを、二か月ばかりして芽を見た時の嬉しさ、成長を楽しみに水肥を遣り八月先端に白い蕾らしきを発見し数日後に白い羽の揺れを見たときは今迄の日々に応えているようで又来年もと希望が湧いています。