私の一句

山田他美子

  衰えを隠さず秋の蛙かな   他美子

この秋、私は古稀を迎えることになった。論語の「七十にして心 の欲する所に従いて矩を踰えず」の年になるのである。とても孔子 の教えのようにはいかないが、感無量という他はない。  

私は小さかった頃は病がちで、ある時医者が母に「こんなに病気 ばかりしている子は二十才までは生きられないかもしれないよ」と 話すのを聞いてしまった。それは多分冗談ぽい口調で言ったのだろ うが、当時の私は本気にしてしまい暫くは食事が喉を通らなかった。

そんな私が医者の言葉が嘘だったかのように半世紀近くも仕事を 続けてこられたとは!これも周りの人たちのお蔭である。ここまで きたら後は無理をせず一生物として生命を全うしたいと思っている。  

そんな折、一昨年九月の俳句道場の兼題は「秋の蛙」。ここに掲出 した句はスラリと出てきたように覚えている。選者の順子さんから は、衰えを「隠せず」ではなく、「隠さず」としたところが潔く思え ました。ありのままの姿で人生を送りたいという作者の考えにも共 鳴しました、という選評を頂いた。これを読み私の想いが真直ぐに 受け止めて貰えたという感を強くした。下手をすると何かのスロー ガンのように受け取られないかと心配していたのである。これから も何かがある度ごとにこの句をそっと口遊んでみようと思っている。