一句一筆 (第五十二号より)

             宮本 艶子

  ハンモック静かにまわる子守歌   三澤 律乃

やさしい母のまなざしに、思わずほっこり。ハンモックに眠る赤ん坊の安らかな寝息が聞こえてきそう。幸せいっぱいの光景は律乃さんの回想の一句でしょうか。次の句に〈母衣蚊帳に吾子気に入りのママ人形〉があり、私も子育ての頃を思い出しました。年を経ても子を思う母の情は変わらないものですね。

  露涼し朝ひと時の庭仕事   宮脇美智子

夏の早朝、草の葉に結ぶ露の涼しさは格別です。夏の雑草はこれでもかと容赦なく生えます。もはや根競べ。美智子さんも暑くならないうちにと、庭の草引きや掃除に一汗流されているのでしょう。活写された日常の何気ない作品に、近況を捉え一喜一憂します。〈なつかしきプールサイドや車椅子〉にも思いが及びます。

  六十の夏生きて六十の顔   森川 敬三

還暦六十歳は人生の再スタート。人生の極寒・極暑を生き抜いてこそ、味のあるその人の風貌や人格が形成されます。敬三さんは教職を退かれたあとも、多方面に活躍の場をお持ちになり、充実した日々を過ごされていると、伺っております。「あした俳句道場」の厳しい文法の教示も愛の鞭と享受し、精進したく思っています。

  呼びかけし声届かずや秋蛍   矢倉 澄子

夫恋いの詩ですね。秋蛍は残る蛍・病蛍とも。この頃の小さく弱々しい蛍はヘイケボタルだそうです。「呼びかけし声届かずや」と澄子さんの、今は亡き夫への万感の想いが、胸に迫ります。折に触れ頂戴するお手紙に、私はいつも力をもらっています。清く端正な澄子さんの様にと思いながらも、私にはむずかしい限りです。

  佞武多燃ゆ友寡黙なる津軽人   安田 孝

東北三大夏祭の一つ、青森の佞武多。極彩色の張り子の勇壮な武者などが街を練り歩く様は、暑さと相俟って正しく「燃ゆ」ですね。祭りを見ながら酌み交わす孝さんの友は、無口な津軽人。お人柄や友情の深さが伝わってきます。静と動の相対する言葉を配し、味わいのある作品です。

  鉄道草夫の知らざる道を行く   柳瀬 富子

「姫昔蓬」「明治草」「御一新草」ともいわれる鉄道草。道端や線路に沿って生えているのを見かけます。夫の死後の女の生きる長い道のりを思います。「夫の知らざる道を行く」と詠まれた富子さんの情感と芯の強さを彷彿させる作品で胸を打たれました。夫婦と言えど、互いに知らない事ばかりです。季語の斡旋に脱帽です。

  あるじ亡き庭にいつしか百合の花   山﨑 宗喜

徳子さんは筍飯を召し上がってほどよいえぐみを美味しく味わったことでしょう。筍に限らず「ほどよい」ということは難しいものです。徳子さんは自身を「ほどよき婆となり」と云っておられます。日々の生活の中で培った味がそのような詩となったのでしょう。私も年を重ねた今からでも味のある、そしてほどよきえぐみもある婆になるように心掛けたいと思っております。

  卒寿とう胸突坂や晩夏光   山司 英子

毎月、梶の葉句会でご一緒させていただく英子さん。卒寿とは信じられません。一連の九十歳の心境を詠まれた作品に、改めて襟を正しました。「胸突坂」「知盛めく」「突っぱっても」と、その一語一語の心境が胸に迫ります。〈山肌に武甲の軌跡晩夏光〉も佳句ですね。一本筋を通す気概こそ、長寿への道。これからも益々、お元気にお過ごし下さい。

  着古しの麻服肌に馴染みたり   山田他美子

夏の麻服は風が抜けてゆくようで、心地良いですね。ちょっとシワになりやすいのが難点ですが―。着古すほどに味わいの出るのは熟女のようです。他美子さんの「生」の姿です。力の入った作品の中に、すっと息抜きの出来る一句を挿入することは大切ですね。〈炎熱や長谷の大仏ゆらぐかと〉― 麻服を着て、丹田に力を入れて、猛暑を乗り越えましょう。

  しなるほど重たき願ひ星祭   吉田 光子

短冊に書かれた数多の願い。その一つ一つの願いの重さに七夕飾りの笹竹がしなっていると。写生を超えた人間の限りない欲望を詠んでいます。私も毎年、小さな七夕飾りを作りますが、願いと祈りがほとんどです。博識と記憶力に抜きん出た光子さん。お酒が大好きで、面倒見のよい、お姉さん格の光子さんに、私はついつい安心して、句会の後は頼ってばかりです。ずっとずっとお元気でいて下さい。

  不器用な仕草のままに踊りけり   渡部 春水

思いがけない春水さんの姿に出会ったようで、思わず笑みがこぼれました。会津魂の気骨と正義感あふれる作品群に紛れていた一句。ぽろっとこぼれた人間臭さは、いいものですね。さらっと詠まれていますが、しっかりと人物像、映像の立ち上がってくる佳句。誰もが信頼する春水さんは「あした」の要。これからもご健康に留意され、私たちを牽引して下さい。

  婆を刺す蚋よそなたも婆なるや   青木つね子

人情と俳味があって、つね子さんらしい作品。ふくよかなつね子さんを刺すなんて、何と無礼者! いやいや幸せものの蚋だこと。いつも力量のある連作で、「同人作品」を牽引して下さっています。「熱帯魚」の七句は独り暮らしになられた現在の心境を素直に吐露され、「蚋」の三句も何とも愉快です。梶の葉句会の幹事としても、すっかりお世話になっています。頼ること頻りです。