一句一筆 (第五十四号より)

              川岸 冨貴

  白寿とう見えいて遠し枯野かな  清水うた子

音絶え枯れ一色の蕭条たる野原の道は見えていながら辿り着けない。白寿という節目もそんな感じですと。芭蕉の句を俤にして格調高い句と思いました。うた子さんは梶の葉句会にも毎回投句なさり、その努力と気力に、皆敬服しております。白寿のお誕生日には会員一同心からお祝い申上げます。

  とにかくに御用納めの日は過ぎぬ  清水 將世

官庁や企業なども十二月二十八日を御用納めにしていますが、現代は年末年始も仕事という業種も多々あります。 將世さんは無事に御用納めを済まされました。「とにかくに」の上五の措辞が中七にかかって、より安堵感や開放感が出て佳句になりました。長年の習慣はたとえ職を離れても忘れ難いもの。山男は、さあ冬山へでしょうか。

  水鳥の二羽の水輪の静かなる  清水 芳子

お城の濠でしょうか。水鳥が二羽しずかな輪が広がる中心にいる、いつまで見ても飽きない風景。芳子さんご夫妻の今の幸せを下敷きにしたお句と思いました。水鳥は鴨、雁、鴛鴦、白鳥など水に浮かぶ鳥の総称ですが、「鴨来る」は秋の季語「鴨帰る」は春の季語のように鳥の生態と季語は重なっていることが解って水鳥は奥が深いですね。

  禰宜一人ではどうにもならぬ落葉  白根 順子

 「一人ではどうにもならぬ」のは順子さんの実感から出た措辞と思いました。落葉は見る人には詩情を誘い、踏みしめた感触を楽しめます。しかし、大きな屋敷林や神社仏閣は本当に苦労の種。日頃謹厳な禰宜が困り果てている可笑し味が伺え、共感している様が重なります。真面目誠実の順子さんですが、連句の連衆を時々笑わせてくれます。

  正面に赤城山座し葱の畝  須賀 経子

伸び伸びと若々しい句。県北は深谷葱の一大産地で葱畑が多い所です。葱の色は格別な蒼で雄大な赤城山をバックに葱の畝々はホッとする景色です。「巨木より静かなる気や朴落葉」も植物好きの経子さんならではの感性の鋭い句です。初めてお会いした時も話題は植物でした。観察眼がしっかりしているので絵手紙が又すばらしい。地域でご活躍です。

  枯蟷螂野面に風のまぎれけり  菅谷ユキエ

この間まで目玉をギョロつかせていた蟷螂が季節には逆らえず、色褪せ生気を失って野の渺々とした風に吹かれ枯草に紛れている哀れさに心揺さぶられた一句。「木瓜の実の愚直にあげる拳かな」俵型のゆがんだ実が枝にしがみつくように付き、熟すと黄色くて香り抜群で野趣があります。(果実酒に最適)ユキエさんならではの手堅いお句と思いました。

  傘寿来る瀬戸のクルーズ秋夕日  鈴木 哲也

 「傘寿来る」と上五でしかりと打ち出し重みが出たと思いました。人生の節目を記念したクルーズの句のようですが、私の歳から申しますと夕日でなく傘寿はまだまだ秋日和です。クルーズならではの楽しさが伺えました。以前のミニエッセイに子午線を跨いで少年の日の夢を適えたとありましたが傘寿からも大いに冒険してのご活躍を期待しております。

  冬祭の夜は山国に波の音  髙尾秀四郎

平面的でなく深さの在るところを捉えていると受け止めました。冬祭は秩父夜祭、山国は秩父盆地、それを受けて「波の音」で、はたと悩みました。一つは屋台囃子の緩急自在のお囃子は荒川の瀬音ともとれます。又、武甲セメントの石灰岩は珊瑚だそうです。秩父は至る所に海であった痕跡があり、太古の涛音が聴こえるロマン満載です。少し深読みだったでしょうか。

  初時雨闇にだかれし街路灯  高橋たかえ

初時雨冬の初めに降る小雨、初の一字でいよいよその季節になったかと思わせる。侘しいなかにも少し華やぎもあり、詩情も感じられます。烟ったような闇に抱かれているのは街灯であったという逆転の措辞は、たかえさんの巧みさです。これから、恋物語の一編が始まりそうな気がします。連句なら恋呼びでしょうか。

  目つむりて聞く白檀や保己一忌   髙橋 福八

目をとじて香を聞く静かなひと時。今日は郷土の誉れである塙保己一の忌日だったと。保己一は本庄市の生まれで盲目の国学者です。福八さんの趣味は香道にもあったのですね。余談になりますが、埼玉テレビで偶然、福八さんの清元を語っている華やかな舞台とインタビューを受けているところを拝見しました。県内名士の会のようでした。ミニエッセイでその時のご様子を期待しております。

  八木節の名手は源太七五三  田口 晶子

たまたま詣でた神社の小屋掛けで八木節の興行が賑々しく行われていた。名手は堀込源太と伝えられている。折りしも七五三の親子連れが三々五々神前に詣でている、思いがけない風景に音楽をなさる晶子さんの詩心が触発された一句と思いました。全くの私事ですが、八木節の盛んな上州。木崎音頭から八木節へ変遷したという説もあり、木崎は古里なのでこの句に釘付けになり素通り出来ませんでした。

  身の芯にすぽっと落ちし除夜の鐘  竹本いくこ

除夜の鐘を煩悩は払い除けてすぽっと身の芯でうけとめた「すぽっと」の措辞が、いくこさんらしくさばさばして気持ちよく受け止められるお句でした。仕事を持ちながらも海外旅行を楽しみ書道もなさり、ご活躍です。前月号に掲載された中の「パシュミナの肌にやさしき月の都」の旅吟は又いくこさんの違う一面を見せてくれる佳句と思いました。