| 兼題「枯野」の講評 投稿者:宗匠 投稿日:2025/12/08(Mon) 10:37 No.12638 | |
|
 | 兼題「枯野」に73句の投句をいただきました。沢山の投句を有難うございました。枯野は冬の草木が枯れた寂寞とした景を表す季語です。それだけにただ寂しいと思ったり、重ねて寂しいもの、空しいものを付ければ屋上屋を重ねることとなります。むしろ明るいもの、切り返し、転じるものなどを付けることで寂しさ自体を重層化できますし、新たな展開が開けます。今回はそんな観点から選句しました。入選以上の句が少なかったものの、秀逸の句はかなりありました。入選以上の句と、予選の句とをを見比べて、どこが違うかをご確認ください。
□宗匠選と講評 (予選) 1.廃線路栄華滅びて枯野なり 膝痛 →廃線、滅び、枯野では寂し過ぎます。 2.枯野原瞬く星も無かりけり コタロー→これも寂しいのみで終わっています。「枯野原瞬く星の光増し」 3.死に処探す猫をり大枯野 コタロー→余りあり得ない景ではないでしょうか。 4.芭蕉翁追ふ心病みつつゆく枯野 コタロー→ただただ寂しい句になっています。 5.河川敷の枯野はもとの田や畑 しーしー→「河川敷の枯野のもとは田や畑」 6.足元に残る畝あと大枯野 しーしー→畝は農地で枯野ではないのでは? 7.大枯野一茶苦労の郷暮らし 郁文 →盛り込むものが多すぎました。 8.大枯野メルトダウンの起きし町 ののはな→「大枯野メルトダウンの起きし地の」 9.一叢に青む芽見ゆる枯野かな ののはな→青き芽は春の季語めいていて季が動きます。 10.枯原へ退屈をもて歩をやりぬ ひろ志 →表現にもたつきがあるように思いました。 11.新しき登山靴で入る枯野原 ひろ志 →登山靴は夏の季語「新調の靴音を吸う枯野原」 12.犬と吾自由に駆ける大枯野 ひろ志 →「犬と吾どこまで駆けん大枯野」 13.枯野ゆく我に寄り添ふ犬の影 みさ →まずまずです。 14.子の声の遠くひびきて枯野道 ゆき →中七の「て」留めは説明的になるので「子の声の遠くひびけり枯野道」 15.熊鈴や鳴らし枯野で吾は餌 膝痛 →熊鈴自体は季語ではないものの、熊自体が冬の季語で季が重なります。 16.望郷の念をペン画に枯野原 杏だんて→望郷と枯野原の結びつきが疑問でした。 17.枯野行く不意にデジャブの一人旅 杏だんて→下五が唐突です。「枯野行く不意にデジャブの景現れて」 18.終活は一人ぼつちの枯野道 凡愚痴歌→「終活は一人で歩む枯野道」 19.幻想の仁王の顔や大枯野 凡愚痴歌→いささか無理があるかと。 20.この先に極楽のあれ枯野原 凡愚痴歌→「この先に極楽ありや枯野原」願望にすると薄っぺらな句になります。 21.行き果ててこころさ迷ふ枯野かな みぃすてぃ→「行き果てて迷いの尽きぬ枯野かな」 22.どこまでも枯野は枯野音はなく みぃすてぃ→もう一歩です。 23.放課後のような夕暮れ大枯野 せつこ →テーマを出し過ぎた 24.老ゆるとは軽やかなりや枯野原 せつこ →芭蕉の「軽み」を使うべき。「老いるとは軽みと知りぬ枯野原」 25.老いたれば果てなき枯野一人旅 さかえ →盛り込み過ぎ 26.ふるさとや戦争ごっこの枯野原 さかえ →ちょっと理解が及びませんでした。 27.振り向けば風が転がる大枯野 光雲2 →「振り向けば風他人めく大枯野」 28.鳥は鳴き風が笛吹く枯野原 光雲2 →まずまずです。 29.都会といふ砂漠枯野の地平線 荒 一葉→ちょっと無理があるかと。 30.ひとはなもふたはなさくや大枯野 リタイア→惜しいです。「ひとはなもふたはなもさけ大枯野」 31.落人の廃屋埋めて大枯野 リタイア→もう一歩です。 32.夕日差す枯野見下ろす宇宙船 穣一 →宇宙船から見えますかね? 33.仁王門いでつ始むる枯野道 山葡萄 →「仁王門いでて始まる枯野道」 34.水墨画の世界にゐるや大枯野 萌 →平板です。 35.ドローンもて俯瞰の枯野別世界 萌 →下五が疑問でした。「ドローンもて俯瞰の枯野無となりて」 36.土砂崩れ枯野は里の家辺り 桉音 →季語が脇役となっていて生きていません。 37.鳥光り枯野横切る西の空 桉音 →これも季語が脇役になっています。 38.枯原に看板立って雲流る 6105→散文です。 39.枯野原四駆の息は天を衝く 6105→下五は終止形より連用形の方が余情がでます。「枯野原四駆の息は天を衝き」 40.廃屋の一本白し枯野道 6105→「廃屋より一筋の白枯野道」 41.枯野過ぎ辿る母屋に母一人 川端 →まずまずです。 42.枯野果て一茶草庵寂と在り 川端 →「誰か知る枯野の果ての一茶庵」 43.落輝果つ赤き実残る枯野原 山葡萄 →惜しい!「落輝果て赤き実残す枯野原」 44.枯野かな来るべき花思い馳せ 川口あおい→花は俳句では桜で春の季語なので安易に使わない方が良いです。
(入選) 1.ただ中を四駆がそろと枯野道 しーしー→枯野に四駆の取り合わせが良いです。 2.枯野路や行商人の靴の音 郁文 →具体的な人を出して枯野が生きてきました。 3.蒼天に吸いこまれゆく枯野かな 郁文 →大きな景の句になりました。 4.枯野行くピンピンコロリの地蔵まで ののはな→明るい枯野の句になりました。 5.日のひかり吸ひ尽くしゐる枯野かな みさ →これも光あふれる枯野の句になりました。 6.夕暮れて風の音のみ大枯野 ゆき →景の句であっても重層的な枯野になっています。 7.落暉いま枯野の風の定まらず ゆき →上記と同じで深みが出ました。 8.ひたすらに歩き歩きて未だ枯野 膝痛 →人物を出して枯野の広さが詠まれました。 9.枯野ゆく栄誉栄達科もなく みぃすてぃ→枯野を行く自分が詠まれています。 10.朝毎の地蔵詣でや枯野道 せつこ →具体的な景が見える句です。 11.尋牛を追ふてひとりの枯野原 光雲2 →枯野に尋牛を付けたのは良かったです。 12.空振りの挫折枯野の風となる 荒 一葉→自分が出ています。 13.ひとところ日の射してゐる大枯野 いつせ →枯野の瞬間的な変化が捉えられています。 14.枯野行く牧水の背に夕日差し 穣一 →牧水の「枯野の旅」が下敷きになっています。 15.枯野過ぎ突如現る磨崖仏 穣一 →摩崖仏を出したのが良かったです。 16.望郷や廃炉の進む枯野原 山葡萄 →原発事故の枯野が詠まれました。 17.病窓に夕紅の大枯野 萌 →枯野を病窓から見るという発想を買いました。 18.毛を立てて犬戻り来る枯野原 桉音 →犬の動きがリアルで良いです。 19.遠山に沈む夕日や大枯野 川端 →入選にしましたが、いささか手垢の付いた表現という感は否めません。 20.枯野行く三脚肩に測量士 風神 →具体的な職業人を出した点が良かったです。 21.少年の枯野に飛ばすブーメラン 風神 →この句も枯野を生かした動きのある句です。 22.熱気球着地を探す枯野かな 風神 →空からの枯野の句という点でユニークです。
(秀逸) 1.枯野行く無頼の血潮滾らせて 影法師 →枯野というものみな滅びた寂しげな場所に対して、反骨性精神を持ったふつふつと滾る思いの作者が地を踏み締めて進む姿は、枯野ゆえに頼もしく、枯野の秘めた復活の気をも取り込むような句になっていると思いました。 2.目瞑りて翁佇む枯野原 詩雨 →芭蕉の辞世の句「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る」の句が思い起こされる句です。類想の句はあるでしょうが、枯野に翁はやはりぴったりと付きます。 3.大枯野井月の影彷彿と みさ →伊那の俳人井上井月を俤にした句です。自然の美しさ、大きさを詠んだ俳人を、大枯野を前にして偲んでいて、季語が動きません。
4.大枯野身にほとばしる熱を持ち 太朗 →この句は枯野というものの本質をとらえているという点でいただきました。枯野は草花は枯れ果て、動物たちは眠りについている野原です。しかし、やがてその枯野は復活し命が甦ります。そんな枯野に負けないほどの情熱持っている句です。 5.現し世に追分多し枯野道 さかえ →追分は街道の分岐点を差します。長い人生の中には様々な分岐点があり、振り返ってみると、その分岐点で選んだ道が正しかったかどうか、自問したくもなります。寂しげな枯野の道を進みながら、そんな自問を繰り返している作者が見えてきます。
6.一人来て枯野の風となりにけり 荒 一葉 →さらりとした句であり、多くを語らない句ですが、しがらみを捨てた自由さが伺える清々しい句に仕上がっていると思いました。
7.恋捨てた枯野だ空は真っ青だ いつせ →二つの「だ」で断定している句です。恋にひとつの区切りを付けるために来た枯野の空は真っ青であったとするこの句は、枯野の「無」の中に希望さえも感じさせる力強さがあります。
以上で73句の講評を終えます。新たな兼題はまた後程、
|
|